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焦点:膨張する中国企業の鉱物資源買収、豪加当局が「待った」

2020年07月11日(土)10時32分

7月5日、鉱物資源が豊富なオーストラリアとカナダが、自国企業への中国国有鉱業会社による買収攻勢を警戒し、案件審査を厳しくしている。写真は内モンゴルの鉱山。2011年7月撮影。提供写真(2020年 ロイター)

Jeff Lewis Melanie Burton

[トロント/メルボルン 5日 ロイター] - 鉱物資源が豊富なオーストラリアとカナダが、自国企業への中国国有鉱業会社による買収攻勢を警戒し、案件審査を厳しくしている。銀行関係者やアナリストによると、こうした規制強化が中国の買収熱に水を差し、産金業界の統合をもくろむ中国政府の役割にブレーキをかけるかもしれないという。

今年になって中国の山東黄金集団<600547.SS><1787.HK>や紫金鉱業集団<601899.SS><2899.HK>は、カナダ北極圏から南米、西アフリカに及ぶ相次ぐ事業買収を先導してきた。

カナダ政府とオーストラリア政府は最近、こうした中国政府系企業の投資への規制を強めている。新型コロナウイルス危機による経済混乱に乗じる形で国の戦略資産が買われやすくなっていると懸念しているためだ。

政府の指針改定で特定の国名は挙げられていない。しかしアルバータ大学中国研究所のゴードン・ホールデン所長は「懸念のほとんどは中国に対するものだ」と話す。

オーストラリアの産金会社アルタ・メタルズの買収を目指していた中国のゴールドシー・グループは6月、豪外国投資審査委員会(FIRB)がこの案件の審査にもっと時間をかける姿勢を示したため、計画を撤回した。

FIRBは6月、外国投資法の改定を発表。「機微な安全保障に関わる事業」に対する外国人投資家からの買収の意向については、案件の規模にかかわらず全てを精査するとした。4月にはリチウムやコバルトなど重要な鉱物資源部門への中国企業からの投資2件を阻止した。いずれも、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)バッテリーなどのハイテク分野や防衛装備に用いられる鉱物資源だ。

オーストラリア財務省の報道官は「我が国の外国投資の枠組みは開放的で透明性があり、受け入れに前向きだ」と述べた。

<ハードル>

中国の天斉リチウム<002466.SZ>はオーストラリアの世界最大のリチウム鉱山で持つ51%の権益の一部を売却しようとしている。銀行関係者は、FIRBがこれを阻止する可能性があることを懸念する。

BDOの天然資源グローバルヘッド、シェリフ・アンドローズ氏は鉱物資源セクター全般について「(買い手の中国企業は)引き続き意欲を示しており、FIRBの強まる妨害に立ち向かう気でいる」と指摘。ただし、外資に対する規制がさらに強まればオーストラリアの国内勢に買収のチャンスが高まるとの見方を示した。

一方、カナダも経済面、安全保障面でのリスクが高まっているとみており、国家が保有する企業による投資はいかなるものでも厳格な審査に直面すると表明している。

アイバンホー・マインズの元マネジャー、デービッド・ホー氏によると、中国の鉱山会社が海外案件に積極的なのは、自国内の開発が制限されているためだ。

北京が本拠の鉱山会社幹部がロイターに語ったところによると、内モンゴル自治区の鉱物資源豊かなシリンゴルリーグ地域の約60%は環境保護策のため開発が制限されている。

山東黄金はトロント証券取引所上場のカナダのTMACリソーシズの買収認可を待っているところだ。TMACはカナダ北極圏で金を採掘している。同社株主は6月に買収を承認した。

駐カナダ中国大使のCong Peiwu氏は6月11日のロイターのインタビューで、「カナダ政府が、カナダに投資し事業を行おうとする中国企業に公正公平で差別的でない取り扱いをすることを引き続き望む」と述べた。

しかし法律専門家や安全保障アナリストによると、TMACのホープベイ鉱山が北極圏にある点が懸念を誘う可能性がある。マクドナルド・ローリエ研究所(オタワ)の上級研究員、ジョナサン・ミラー氏は、カナダ政府がこの件を阻止する可能性は「極めて高い」と語った。

中国の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)[HWT.UL]の孟晩舟副会長をカナダ政府が拘束したことをきっかけに高まった両国間の緊張は、中国政府が6月に、拘束しているカナダ市民2人をスパイ容疑で起訴したことでさらにエスカレートしている。

ミラー氏は「そうした点を踏まえると、(TMAC案件の)認可は非常に難しいだろう」と述べた。

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