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アングル:日銀ETF貸付が4月開始、流動性向上に期待 東証は商品増へ

2020年01月24日(金)16時05分

 1月24日、日銀は上場投資信託(ETF)貸付制度を4月にも開始する。写真は都内で2017年6月撮影(2020年 ロイター/TORU HANAI)

和田崇彦 木原麗花

[東京 24日 ロイター] - 日銀は上場投資信託(ETF)貸付制度を4月にも開始する。市場規模の約7割を保有する日銀がETFを貸し出せば流動性が高まり、投資家の裾野が広がると期待されている。低金利環境の長期化で地域金融機関などのETFの購入意欲は強く、東京証券取引所は、運用会社と連携して外国株や外債のETFを出すことで市場拡大を目指す方針だ。

日銀は昨年12月、ETF貸付制度の概要を発表した。ETFの主要な市場参加者を対象に毎日、貸し出すことを想定している。貸付利率は入札で決める。ETF購入は金融政策の柱の一つであるため、貸し付けに伴う担保金にはマイナス金利が付く。関係者によると、日銀は4月にも貸し付けを始める予定だ。日銀は24日、ETF貸付の対象先の公募を始めた。

<流動性向上への期待>

日銀は2010年12月にETFの購入を開始。19年9月末時点の保有残高は27.5兆円に上り、日本のETFの市場規模の約7割を占めるまでになった。日銀は保有残高を年6兆円増やす方針を掲げている。

しかし、日銀の保有量の拡大は流動性低下という弊害につながり、市場参加者からは、日銀が保有しているETFを貸し出してほしいとの声が上がっていた。これまでは、大手金融機関がETFを貸し出そうとしても、借り手である証券会社が欲しい銘柄を必ずしも潤沢に保有しているとは限らない、ETF貸出先の信用管理が難しいなどの理由で貸借市場が育ってこなかったことも、ETF貸付への待望論につながった。

それだけに、日銀がETF貸付制度を発表すると、市場参加者からは歓迎の声が上がった。

東証・株式部の南出浩希統括課長は「買いたいサイズに見合う流動性がないので、商品としては認知していても、選択肢から外れていたという話を金融機関からよく聞いた」という。

流動性改善のため、東証は2018年にETF市場のマーケットメイク制度を導入。現在はマーケットメイカー7社が全銘柄の約6割に当たる118銘柄に流動性を供給している。日銀の貸付制度も加わって流動性がさらに向上すれば「金融機関としても使いやすくなる」(南出氏)とみられる。

日銀は、市場参加者と意見交換をしながら制度設計を進めた。関係者によると、日銀は当初、月に1回程度の入札を想定していたが、常に借りられるようにしてほしいとの要望が非常に強く、日次で入札を実施することにしたという。

<ETFへの投資ニーズ高まる>

低金利環境の持続で、運用難に苦しむ金融機関はイールドハントの動きを強めてきたが、金融機関の間でETF購入意欲も強まっている。東証・株式部の大巻政弘調査役は「信金の中には、もともと債券しか投資していなかったがETFで初めてエクイティのエクスポージャーを取ろうとするところがある。ETFで外株や外債を始めてみようという金融機関もあり、イールドが少しでもあるところを取っていこうという動きは強くある」と話す。

貸付に伴う担保金にマイナス金利が付くことで、借りるコストが高くなれば貸付制度が活用されないリスクもある。しかし、日興アセットマネジメントの今井幸英ETFセンター長は「日銀は入札をしながら毎日貸し出すとしているので、貸出プライスも市場価格の影響を受け、競争原理が働くだろう」とみる。

今井氏は、ETF貸付制度が呼び水となって、日銀が貸し付けるETF以外のETFも貸出市場に流通することに期待を寄せる。ETFを大量に保有する大手銀がETF貸付に乗り出す可能性も浮上している。日銀にとっても、貸付制度がETF市場の育成につながればETF購入の余地が広がることになる。

日本のETF市場規模は米国の10分の1にとどまっており、流動性の向上とともに商品の増加も急務となっている。東証は、投資家のニーズが強い外国株や外債のETFのラインアップを拡充する方針だ。東証の南出氏は「日本株については、日銀の貸付制度が入ってETFの投資がさらにやりやすくなる。外国株や外債については、運用機関と議論しながら金融機関のニーズに合った新しい商品ができていくことで、さらに広がっていくのではないか」と話している。

(編集:田中志保)

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