ニュース速報
ビジネス
焦点:肉厚の鶏に活路、品種改良に賭ける中国食品大手
6月13日、中国の鶏肉大手、広東温氏食品<300498.SZ>は、国内で急成長するスーパーマーケットやファーストフードの市場の取り込みを狙い、遺伝子工学に高い関心を注いでいる。中国広州で2013年撮影(2018年 ロイター/Alex Lee)
Dominique Patton
[北京 13日 ロイター] - 中国の鶏肉大手、広東温氏食品<300498.SZ>は、国内で急成長するスーパーマーケットやファーストフードの市場の取り込みを狙い、遺伝子工学に高い関心を注いでいる。
レストランチェーンやスーパー向けの供給を改善するため、自社に設けた遺伝子バンクと繁殖部門を基盤として、より肉量の多い新たな品種の鶏をつくり出そうとしている。同社の代表取締役で、筆頭株主でもある温鵬程氏が、ロイターとのインタビューで明らかにした。
鶏を生きたまま顧客に販売する地方市場向けの事業から出発した温氏食品にとっては、これは大きな進路変更となる。
「ある程度の重量が必要で、見栄えがよく、味も人々の期待に応えるものでなければならない」と、温氏は自社が目指す新たな品種について説明する。品種開発に成功すれば、1羽あたりの肉量が多いブロイラーを販売する福建聖農発展<002299.SZ>などのシェアを奪う可能性がある。
温氏食品がこうした動きに出る背景には、主力製品の豚肉が価格の急落に苦しんでいる状況がある。2017年純利益は、売上高557億元(約9600億円)に対して68億元と、前年比で42.6%減少した。
豚肉が過剰供給となる中で、今年の業績はさらに悪化することが確実だ。第1・四半期の純利益は14億元と4.4%減少し、温氏食品の株価は年初来で15%下落した。
鶏肉加工の福建聖農発展や養豚企業の牧原食品<002714.SZ>など、規模は劣るが専門性の高い競合他社と比べ、株価収益率の点で劣るとはいえ、温氏食品には十分な規模があるため、豚肉事業で損失が長引いたとしても耐えることができる、と中泰証券アナリスト、チェン・ルー氏は語る。
「これまでも常に周期的な価格変動は見られた」とルー氏は語り、鶏肉事業部がリスクを「フラット化」するだろうと言葉を添えた。
昨年、中国鶏肉市場の約4割となる約470万トンを占めた在来種の「黄毛種」において、温氏食品は国内有数の生産者である。
黄毛種の鶏は成長が遅いが、グローバル企業が生産する白毛種のブロイラーよりも好まれている。味が濃いため鶏を煮込んだスープなどの人気料理に向いており、歯応えもあり、栄養価も優れているという、もっぱらの評判だからだ。
温氏食品が計画しているのは、味の良さと同時に肉量も多い在来種を開発することだ。
より小規模なHunan Xiangjia Animal Husbandryなどの在来種生産企業は、すでにスーパーマーケットやネット上の食品販売サイトでの売上げを伸ばしている。Hunan Xiangjiaによれば、2017年の売上高約6億4600万元のうち、半分以上が加工済み鶏肉だという。
温氏食品では現在、生産した鶏の約8割に相当する年間約6億羽を、生きたまま市場に販売している、と温氏は言う。
ラボバンクでシニアアナリストを務めるパン・チェンジュン氏は、世界第5位の規模の養鶏企業が小売にシフトすれば、市場に大きな影響を与える可能性があるという。白毛種の鶏肉に言及し、「消費者が高級品志向を強め、もっと味のよい商品を探すようになるにつれて、鶏肉市場には確実に影響が出るだろう」と語った。
<冷蔵鶏肉>
温氏食品は、新たな販路に注意を向けざるを得ない状況にある。新鮮さを確保するために鶏を生きたまま買うという慣習のせいで、同社は近年の鳥インフルエンザ流行の際、市場閉鎖に対する脆弱さを露呈してしまった。
昨年流行した中国史上最悪の鳥インフルエンザによって、約300人の犠牲者が出ており、その多くが生きた鶏の売買を扱う労働者だった。
市場閉鎖と鶏肉価格が30%下落したことで、温氏食品の2017年利益は46%低下した。
春に市場が再開されたことで売上げは回復したが、当局が流行拡大を防ぐために一部の市場を完全に閉鎖するなど、市場の閉鎖が日常化するとの予想もある。
また、多忙な若年層の都市住民がもっと利用しやすい食品購入経路を選択するようになれば、こうした[生きた鶏を扱う]市場における需要は減少するだろう。
温氏は、「打開策が見つからなければ、黄毛種の消費量は徐々に減少していくだろう」と言う。
<巨大な投資>
新規市場での売上げを増やすには時間がかかる。ヤム・ブランズ
世界有数の養鶏品種改良企業の1つで、最近エビアジェンに買収されたフランスのハバード・ブリーダーズの専門家によれば、在来種のオスと成長の速い品種のメスを交雑することにより、中国の養鶏企業の競争力は上がるかもしれない、という。
だが新品種の開発は費用のかかる事業である。
ハバードのマーケティング担当ディレクターであるPaulvan Boekholt氏は、「何らかの成果をあげるまでに10─15年は必要だ」と語る。同氏はさらに、数年後の市場需要がどうなるかを予測することも1つの課題だと言う。
在来種に専念していれば、昨年、白毛種のブロイラーに必要な種鶏の輸入の制約となった検疫問題を回避できる。
温氏は、黄毛種の鶏肉を扱う大規模な小売市場が存在するフランスにも目を向けているという。動物福祉への関心により、欧州諸国の多くでは成長の遅い鶏に対する需要が伸びている。
動物福祉への関心は中国ではさほど広がっていないものの、地元の味覚はそう簡単には変わらない。
温氏は、冷蔵の黄毛種鶏肉市場を「ゆっくりと開拓していかなければならない」と語る。
温氏食品は広東省・浙江省に4カ所の食肉処理場を保有しており、江蘇省にも新たに1カ所を建設中だ。また温氏によれば、新規プロジェクトのための拠点も探しているところだという。
さらに同社は、黄毛種鶏肉の購入実績がある香港のフェアウッド・ホールディングス<0052.HK>などのファーストフードチェーンや、スナック菓子メーカーへの販売強化も検討している。
「鶏肉市場における成長の余地はまだかなり大きい」と温氏は語った。
(翻訳:エァクレーレン)