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焦点:中国の銀行預金準備率、景気先行き懸念で一段の下げも

2018年04月23日(月)08時53分

 4月18日、米国との貿易戦争や当局による金融機関の負債圧縮に向けた取り組みで中国景気が悪化するとの懸念が高まっており、銀行預金準備率の引き下げは今回が打ち止めとはなりそうもない。写真は中国人民銀行(中央銀行)。2014年撮影(2018年 ロイター/Petar Kujundzic)

[北京 18日 ロイター] - 中国人民銀行(中央銀行)は17日に銀行預金準備率の1%ポイント引き下げを発表したが、米中貿易戦争や当局による金融機関の負債圧縮に向けた取り組みで景気が悪化するとの懸念が高まっており、準備率引き下げは今回が打ち止めとはなりそうもない。

今回の準備率引き下げは、予想を上回る第1・四半期国内総生産(GDP)統計が発表された直後だっただけに、ほとんどの投資家が意表を突かれた。3月の生産は不振だったが、1、2月の好調がこれを相殺した。

突然とも言える引き下げから、3月に表れた景気の冷え込みの兆しや一段の鈍化の可能性に政府が懸念を抱いている様子が読み取れる。

中原銀行の首席エコノミストのワン・ジュン氏は「政策の意図は明白だ。中国は景気が下押し圧力を受け、外部環境の見通しも悪化しており、ある程度流動性を高めるか、引き締めを少し緩めようとしている」と指摘。「政府は短期の政策手段を徐々に預金準備率に置き換えようとしており、準備率は一段の引き下げ余地がある」とした。

トランプ米大統領は中国の知的財政権侵害行為などへの制裁として1500億ドル相当の中国製品に関税を課す方針を表明し、中国は報復措置を取る方針を示している。米中が全面的な貿易戦争に突入すれば両国で輸出が落ち込み経済成長が打撃を受けるほか、影響は他国にも及ぶだろう。

一方、中国は理財商品など「影の銀行」の金融商品を通じた野放図な資金の貸し借りが経済の安定を損なうとの懸念を強め、金融セクターの負債圧縮に取り組んでおり、与信環境は引き締まりが進んでいる。また、最近の人民元高も輸出業者の競争力をそいでいる。

人民銀は今回の預金準備率引き下げで銀行は高コストの借り入れの返済や中小企業向け融資に充当する現金を手にできると説明。市中銀行が確保する資金のうち9000億元は貸出ファシリティー(MLF)の返済に、4000億元は中小企業向け融資に使われるとしている。

ソシエテ・ジェネラルの中国エコノミスト、ウェイ・ヤオ氏は顧客向けノートで「人民銀が準備率の早期引き下げに踏み切ったことから、同行が金融市場での負債圧縮の影響やその対応策を強く意識していることが分かる」と述べた。

OCBC銀行の中国エコノミストのトミー・シー氏もノートで「今回の準備率引き下げで、中国がこれ以上の金融引き締めに動かないとのコンセンサスが強まった。準備率引き下げは与信の拡大を安定させ、金融の引き締まりを緩和する予防的な役割を担うとみられ、一段の引き下げがあり得る」と分析した。

エコノミストの間からは、準備率引き下げは債務スワップのようなものだとの声も上がっている。人民銀は近年、流動性の供給をMLFや常設貸出ファシリティー(SLF)などに頼っているが、こうした政策手段の継続が難しくなっているという。

中国国際金融股分有限公司(CICC)によると、MLFの残高は4兆9000億元に上っており、毎月の償還額は4200億元ほどに達している。

ダイワ・キャピタル・マーケッツ(香港)のシニアエコノミストのケビン・ライ氏はノートで「人民銀が貸出ファシリティーや準備率の面で手を打たなければ、金融市場は自動的にどんどん引き締まる。緩和は絶対に必要だ」と指摘した。その上で、GDPの急激な落ち込みや全面的な貿易戦争突入がない限り、人民銀が利下げに踏み切ることはないとの見方は変えてないとした。

CICCの推計によると今回の準備率引き下げで短期金融市場の金利は20ベーシスポイント(bp)以上、債券利回りは10bp以上それぞれ低下する見込み。また宏源証券の推計によると、上場銀行は今年の純金利マージンが1.2bp拡大し、純利益が0.9%増える見通しだ。

(Kevin Yao記者、Shu Zhang記者)

ロイター
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