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焦点:欧州の銀行劣後債が好調、一部で「行き過ぎ」警戒の声も

2018年02月23日(金)08時21分

 2月21日、ユーロ圏の銀行が発行する劣後債が、旺盛な需要を集めている。写真はユーロ紙幣。2014年撮影(2018年 ロイター/Ralph Orlowski)

[ロンドン 21日 ロイター] - ユーロ圏の銀行が発行する劣後債が、旺盛な需要を集めている。景気拡大に加え、世界金融危機以降の改革によって金融システムが強化されたとの自信を背景に、投資家が高いリスクを積極的に取り始めた模様だ。

金融危機時に2度も救済措置を受けたIKBドイツ産業銀行は先月、大手格付け会社による格付けを得ていない劣後債3億ユーロを発行。4%の利回りにひかれ、発行額の4倍の応募が集まった。

欧州最大級の機関投資家の一部は、銀行債の中でも特にこうした劣後債に好んで投資している。

欧州屈指の大手資産運用会社アムンディの債券責任者エリック・ブラード氏は「欧州銀のファンダメンタルズは過去に比べてずっと良くなっている。景気回復だけでなく、債務削減と規制強化の結果だ」と話す。

ブラード氏は、欧州中央銀行(ECB)が徐々に金融緩和を巻き戻すと予想されていることにも触れ、「今後数カ月、数年の間にマイナス金利から抜け出していくと、長期的に金融業界に恩恵が及ぶはずだ」と指摘。シニア債に比べて利回りが50─100ベーシスポイント(bp)高い劣後債を選好していると説明した。

過去1年、劣後債は欧州債の中で最も良好なパフォーマンスを示している。最低格付けの銀行債の主力指標、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのコンティンジェント・キャピタル指数<.MERCOCO>は、2014年1月の導入以来、最も大幅に上昇した。

トムソン・ロイターのデータによると、ユーロ圏の銀行が昨年発行した劣後債は1060億ユーロ相当で、利回りは平均4.9%だった。2013年には1320億ユーロが発行されたが、当時の利回りは9.2%と、昨年の2倍近かった。

2012年5月に、破綻間際で救済されたスペインのバンキアも昨年、AT1債を7億5000万ユーロ発行した。AT1債は返済期日が設けられておらず、株式に近い「ハイブリッド債」で、劣後債の中でも最もリスクが高い。

世界銀行のデータによると、ユーロ圏の銀行の不良債権比率は2012年から16年にかけて半減し、4%強となった。

16年末の普通株式自己資本(Tier1)の比率は13.5%と、07年の3.7%から大幅に上昇している。

リクソール・アセット・マネジメントのシニア・クロスアセット・ストラテジスト、バティスト・ベルソン氏は「システミック・リスクが比較的抑えられていることに、かなり自信を抱いている」と話し、あらゆる資産クラスの中で欧州銀をオーバーウェートにするとともに、債券の中では劣後債を有望視していると説明した。

<異常な利回り>

ただ一部には、劣後債人気は投資家の利回り追求による部分が大きく、行き過ぎだと警戒する声もある。

例えば、2013年にスペインのバンコ・ポピュラールは表面利率11.5%でAT1債を発行したが、同行は昨夏、サンタンデール銀行による買収という救済措置を受け、この債券は紙クズ化した。

この1件は投資家にこうした債券のリスクを再認識させたと思いきや、ベルギーの銀行ベルフィウス(旧デクシア・ベルギー)は先月、5億ユーロのAT1債を利回り3.658%で発行することに成功した。リスクを考えれば利回りはあまりにも低く、あるバンカーは「異常だ」と切り捨てる。

この債券は発行後に急落し、現在は額面100ユーロに対して97.75ユーロで取引されている。

それでも高リスク債券の人気は衰えず、ギリシャの銀行による劣後債発行の可能性まで浮上している。ギリシャといえば、国家がデフォルトの瀬戸際に追いやられたことが記憶に新しい。

劣後債の販売に携わるバンカーはある顧客から、利回りの低下自体がリスクの低下を意味すると受け止められ、劣後債の買いが正当化されているのではないか、との懸念を打ち明けられた。

このバンカーは「利回りが7%だったときには、多くの投資家が『リスクの高い商品だ』と言っていた。マクロ環境はほとんど変わらないのに、今はまったく同じ投資家たちが、7%のときに手を出さなかった債券を3%で買っている。利回りが低くなるほど安心して買えるというわけだ」と皮肉った。

(Abhinav Ramnarayan記者 Alice Gledhill記者)

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