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焦点:日銀が切ったガイダンス見直しカード、効果は未知数の声
[東京 25日 ロイター] - 日銀は25日の金融政策決定会合で、「少なくとも2020年春ごろまで」は現在の長短金利目標を維持することを約束し、同時に公表した新たな「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、2021年度も物価が目標の2%に届かないとの見通しを示した。上がらない物価に対し、日銀がフォワードガイダンス見直しという「カード」を切ったが、その効果は未知数だ。
緩和長期化の副作用が、地域金融機関の経営面に「噴出」するリスクも高まっており、日銀がどこかの時点で、さらに別の「カード」を切る可能性もありそうだ。
黒田東彦総裁は25日の会見で、フォワードガイダンスを明確化した理由について「強力な緩和を粘り強く進めていく姿勢を明確に示すことが必要と判断した」とし、修正によって市場の一部の思惑よりも「(時間軸が)もっと長いということを明確にした」と語った。
展望リポートでも、新たに示した2021年度の消費者物価(生鮮食品除く、コアCPI)見通し(政策委員の大勢見通しの中央値)が前年比1.6%上昇となり、総裁は21年度中に物価が目標の2%に達する可能性は「低い」との見解を示した。
今回の日銀の決定と見通しからは、現在の金融緩和を「粘り強く続けていく」姿勢をさらに強調しようという日銀の意図が透けて見える。
市場の一部には、欧米の中央銀行がハト派に転換したことによる海外金利の低下を受け、「単なる『現状維持』では、相対的にタカ派的な位置づけとなってしまい、通貨高を引き受けさせられかねない。来たるべき円高圧力のけん制を狙ったのではないか」(みずほ銀行・チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔氏)との声も出ていた。
また、ある国内銀行の関係者は「2%にしばらく届かないと多くの市場関係者がみていたので、これで緩和強化とは受け止められないだろう。物価を押し上げる効果やルートはよく分からない」と話す。
一方、緩和政策が長期化することで、イールドカーブに影響が出ている。日銀はイールドカーブ・コントロール(YCC)政策の下で、長期金利をゼロ%を中心に上下0.2%程度の範囲内に誘導。足元のマイナス0.04%程度の水準に問題はないとの立場だが、マイナス利回りの国債への投資家需要は着実に減退している。
プラスの利回りを確保できる20、30、40年といった超長期国債は「大人気」(国内証券)。超長期ゾーンの国債利回りは軒並み低下し、イールドカーブは2016年9月のYCC導入時に近い形状までフラット化が進行している。
YCCは、イールドカーブの過度なフラット化に伴う保険や年金などの運用利回りの低下によって「将来における広い意味での金融機能の持続性に対する不安感をもたらし、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性」(16年9月の総括的な検証)を回避するために導入された面がある。
日銀が17日に公表した「金融システムリポート」では、低金利環境の長期化を背景に金融機関が積極的にリスクを取っている一方、地域銀行を中心にリスクに見合った収益が確保できず、自己資本比率とストレス耐性が低下しているとして、金融システムへの警戒レベルを引き上げた。
会合では、緩和長期化が避けられない中で、政策の持続性を確保するために上場投資信託(ETF)を一時的に市場参加者に貸し付ける制度の導入を検討するほか、適格担保について企業債務の信用力を緩和する措置なども決めた。
市場では、一連の措置について「純粋に国債買い入れなど現行緩和策の継続を担保するためだろう」(同)とみられている。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券・シニアマーケットエコノミストの六車治美氏は、今回の日銀のフォワードガイダンス明確化などの対応について「現状の長短金利操作目標については物価目標と切り離し、不確実性さえ後退すれば副作用を勘案して調整する、といった方向に進もうとしているようにも受け止められる」と分析する。
一方、先の国内銀行の関係者は「ショックが起きれば追加緩和を決断し、平穏な状況が継続すれば、物価が上がらないことを理由に、新たな緩和ツールを打ち出すこともありそうだ」と予想する。
25日の市場反応は限定的とはいえ、日銀に対する注目度は、今回のフォワードガイダンス見直しを機に高まることになりそうだ。
(伊藤純夫 編集:田巻一彦)