ニュース速報

インタビュー:脱デフレへ財政・金融協調を、増税撤回は不可欠=岩田前日銀副総裁

2019年02月18日(月)13時58分

[東京 18日 ロイター] - 岩田規久男・前日銀副総裁は、ロイターとのインタビューに応じ、デフレ脱却には、10月に予定されている消費税率引き上げを撤回するとともに、国債発行を財源として若い世代に所得分配する財政拡大が不可欠と訴えた。財政と金融の協調によって財政資金を日銀がファイナンスし、お金が民間に流れ続けることをコミットすることで、デフレマインドの払拭が可能になると語った。インタビューは15日に行った。

<成長と再分配政策が不可欠、財政・金融一体で民間に資金を>

岩田氏は、日本経済の現状について「デフレ脱却の過程にある。しかし、いつ崩れるか分からないくらい弱々しい」との認識を示し、デフレからの脱却には、前回の2014年4月の消費増税から5年近くが経過しても低迷を続ける個人消費がポイントになると指摘した。

消費活動とインフレ予想が高まっていない中での10月の消費増税は「とんでもない」と撤回を求め、特に子育て世代を中心にした若年層の消費性向の低下と教育費負担の重さを問題視。消費増税とともに10月にスタートする教育無償化は「政策として正しい方向」としながら、「増税したお金を戻すに過ぎない。若い世代の可処分所得を増やすには、増税ではなく、成長と再分配政策を組み合わせることが不可欠だ」と主張した。

前回の消費増税の教訓から「日銀の金融超緩和政策だけではインフレ予想を上げることができず、2%の物価安定目標の達成に失敗する可能性が極めて高い」との認識を示し、「財政と金融が一致協力して、お金を民間に流すことを真剣に考えるべき」と強調。

資金需要が乏しい中、通常の銀行貸出を通じたルートでは「デフレ脱却を可能にするほどマネーストックを増やすことはできない」とし、「若い世代の実質的な所得を増やすには、国債を発行して、その国債を買った銀行から日銀が国債を買い、お金を彼らに流すしかない。増税ではないので民間からお金が吸い上げられず、必ず民間に流れていく」と語った。

こうした対応によって、若い世代を中心に「消費が増えれば、設備投資も増える」と述べ、「デフレマインドを払拭するには、日銀資金が政府から財政資金としてとうとうと流れ、これが恒久的に続くということにコミットすることが重要だ」と訴えた。

<国債買入増で量的効果も、財政ファイナンスは有効>

国債増発によって財政再建が遅れ、金利が上昇する懸念があるが、「日銀が現在のイールドカーブ・コントロール(YCC)政策の下で、金利が上がらないように自動的に国債をさらに買えば、量的緩和と同じ効果がある」と説明した。

そもそも日銀が国債買い入れ額を減らしているにもかかわらず、長期金利をゼロ%程度に誘導できているのは「予想インフレ率が低いからだ」とし、政府と日銀が一体となってフォワードルッキングな予想形成を促す「リフレ・レジーム」の必要性を強調した。

リフレ派の中には、変動相場制の下では財政政策よりも金融政策の方が有効などとするマンデル・フレミング理論を重視する声があるが、「14年度の消費増税の結果は、マンデル・フレミング・モデルが通用しなかったことを示している」と指摘。デフレ脱却に向けて、今こそ「金融政策と財政政策とが協力して財政資金を回すという本来のリフレ派の考え方に沿って、マネーストックを増やすべき時だ」と訴えた。

こうした対応は、日銀による財政資金のファイナンスとの批判が強まる可能性がある。岩田氏は「今の政策はすでに財政ファイナンス。これ以外にデフレから脱却できる方法はない」と述べ、物価2%目標が歯止めになるため「ハイパーインフレになる心配は、まったくない」との見解を示した。

一方で「これ以上、金利を下げたら銀行がバタバタとつぶれてしまう」とし、「日銀だけが一生懸命やっているが、財政は逆噴射しているのが実情であり、今は日銀の金融超緩和政策と積極財政の協調が不可欠」と繰り返した。

そのうえで、このまま消費増税を実施すれば「黒田東彦日銀総裁は、10年かけても物価2%が達成できなかった駄目な総裁で終わってしまう」と述べるとともに、今後は2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けたインフラ投資がほぼ終わり、設備投資や個人消費も期待できないと指摘。「安倍晋三首相も、景気後退の時に辞めることになりかねない」と政府・日銀に対応を促した。

(伊藤純夫 木原麗花 編集:田中志保)

ロイター
Copyright (C) 2019 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英インフレ率目標の維持、労働市場の緩みが鍵=ハスケ

ワールド

ガザ病院敷地内から数百人の遺体、国連当局者「恐怖を

ワールド

ウクライナ、海外在住男性への領事サービス停止 徴兵

ワールド

スパイ容疑で極右政党議員スタッフ逮捕 独検察 中国
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 10

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中